メンタルヘルスと食事の関係|ストレスを軽減する食生活

ストレスや不安を抱える人が増え、メンタルヘルスの重要性がますます高まっています。厚生労働省の調査(1)によると、日本の労働者の82.7%が職場で強いストレスを感じていると報告されています。ストレスやメンタルヘルス不調は経済的な損失にもつながります。メンタルヘルスの不調は、集中力の低下・作業効率の悪化・ミスの増加 などの影響を及ぼし、最悪の場合は休職や離職につながることもあります。

メンタルヘルスのケアには食事が大きな役割を果たすことが研究で明らかになっています。本記事では、メンタルヘルスを支える食事のポイントを解説しますのでぜひ最後までご覧ください。

1)厚生労働省「令和5年労働安全衛生調査」

メンタルヘルスと食事の密接な関係

メンタルヘルスとは

メンタルヘルスとは、精神的、感情的な安定と幸福感を保つことを指します。現代社会では、ストレスやうつ、不安症などのメンタルヘルスの問題が増加しており、これらが進行すると仕事や日常生活に支障をきたし、生活の質が低下します。

食事がメンタルヘルスに与える影響

食事はメンタルヘルスに密接に関連しています。私たちの脳は神経伝達物質やホルモン、栄養素などによって影響を受け、これらは食事を通じて供給されます。例えば、セロトニンやドーパミンといった神経伝達物質は、食事から得られる栄養素によって合成され、私たちの気分や精神状態に直接的な影響を与えます。

また、腸内フローラの健康状態もメンタルヘルスに重要な影響を与えることが分かっています。腸内細菌が脳とコミュニケーションを取り合い、精神的な安定に関与することが研究で明らかになっています。(2)(3)腸内環境が整っていると、メンタルヘルスの改善にもつながります。

2)Brain Behav Immun. 2015 Aug:48:186-94
3)Integr Med (Encinitas). 2018 Aug;17(4):28-32

メンタルヘルスをサポートする神経伝達物質と栄養素

セロトニンとトリプトファン

メンタルヘルスにおいて重要な役割を果たす神経伝達物質には、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンなどがあります。これらの物質は、私たちの感情や気分に大きな影響を与え、食事から摂取した栄養素によって合成されます。例えば、セロトニンは「幸せホルモン」とも呼ばれ、心の安定に深く関与しています。このセロトニンは、トリプトファンというアミノ酸を原料として合成されます。

オメガ-3脂肪酸やビタミンB群とうつ病

オメガ3脂肪酸(特にDHAやEPA)は、脳の機能や構造に深く関わり、ストレス耐性を向上させることが分かっています。これらの脂肪酸を多く含む食事を摂ることで、ストレス耐性が向上し、うつ病のリスクが低下することが示されています(4)

その他、ビタミンB群は、ストレス軽減や神経伝達物質の合成に不可欠であり、特にビタミンB12が不足すると、神経機能の低下やうつ症状の悪化が引き起こされることが分かっています。

4)JAMA Netw Open.2018 Sep 7;1(5)

腸内環境がメンタルヘルスに与える影響

腸内フローラは腸内に住む微生物群で、このバランスがメンタルヘルスに与える影響が注目されています。腸内環境を整える(=腸内フローラのバランスを良くする)ことで、精神的な安定を保つことができます(5)。腸内フローラを健康に保つためには、食物繊維や発酵食品を意識的に摂取することが大切です。

5)Neuropsychobiology (2020) 79 (1): 108–116.

脳と腸の深いつながり

脳腸相関、または腸脳相関という言葉を聞いたことはないでしょうか。脳と腸内環境の情報が連動して健康に影響することを指します。例えば、ストレスを感じるとお腹が痛くなるという症状は、脳が感じたストレスがお腹に伝わったことで生じています(脳→腸)。逆の流れも知られており、腸内細菌の作る短鎖脂肪酸量が減少することで腸内のセロトニン産生量が減り、その情報が脳に伝わることでうつ症状を引き起こしてしまいます(腸→脳)。このように、脳と腸はつながっており、食べ物などによって腸内細菌のケアをすることは、うつ症状のケアにもつながる可能性があります。

メンタルヘルスを改善するための食生活

では具体的に、メンタルヘルスケアに有効な食事とはどのようなものでしょうか。

規則正しくバランスの良い食生活

何よりも大切なことは、「規則正しく食べる」「バランスよく食べる」の2つです。生活のリズムが乱れ、食事の時間が不規則になると体もリズムを崩し、これがメンタルヘルス不調の原因ともなります。食事の時間を決めて、朝・昼・夕の3食を食べる習慣をもつことは非常に大切です。また、食事内容が偏り、栄養バランスが悪くなることで、メンタルヘルスに影響を与える栄養素の不足にもつながります。サプリメントや健康食品の利用も良いですが、まずは食事から整えることを意識しましょう。

特に意識して摂取したい食品を以下に紹介します。日常生活の中でぜひ取り入れてみましょう。

トリプトファンを豊富に含む食材

トリプトファンは、セロトニンの前駆体として知られ、気分の安定や睡眠の質向上に関与します。この栄養素が不足すると、ストレス耐性が低下し、不安感が高まる可能性があります。トリプトファンはたんぱく質を構成するアミノ酸の1種です。たんぱく質を多く含む食材である、肉・魚介類・卵・大豆製品・乳製品などを食べることでトリプトファンを摂取することができます。特に、大豆製品や乳製品、バナナにトリプトファンは多く含まれています。朝食にトリプトファンを摂取することで、睡眠の質向上が期待できるので、朝食に豆乳や乳製品、バナナなどを取り入れると良いでしょう。

オメガ-3脂肪酸を豊富に含む食材

オメガ-3脂肪酸は、精神的な健康に非常に重要な役割を果たします。先に記載した通り(4)オメガ-3脂肪酸が豊富な食事を摂取することで、ストレス耐性が向上し、うつ症状や不安症状の軽減に繋がることが示されています。オメガ-3脂肪酸が豊富な食材は、サーモンやマグロなどの魚類、くるみ、亜麻仁油などです。肉を食べる機会が多い人は、1日に1回は魚を食べる習慣を設けることで、オメガ-3脂肪酸の摂取量を増やすことができるでしょう。ツナ缶やサバ缶でも問題ないため、ツナやサバが入ったサンドイッチなどをランチに選んではいかがでしょうか?

ビタミンB群を豊富に含む食材

ビタミンB群は、神経伝達物質の合成に必要不可欠な栄養素です。特にビタミンB6やB12は、精神的な健康に大きな影響を与えます。ビタミンB群が不足すると、抑うつ症状や不安感が強くなることがあります。ビタミンB群を豊富に含む食材には、レバーや卵、緑黄色野菜、豆類などがあります。トマト、ブロッコリー、人参、ピーマンなどの色の濃い野菜を選ぶことを意識してみましょう。コンビニでサラダを購入したり、サラダバーのあるお店を選んでみてはいかがでしょうか。これらが難しい場合はミニトマトや冷凍のブロッコリーを自宅に常備し、朝食や夕食に食べる習慣を作るといいかもしれません。

食事による腸内環境ケア

腸内環境の健康はメンタルヘルスに直結しているため、腸内環境をととのえることが重要です。乳酸菌やビフィズス菌などの体に良い菌(善玉菌)を食事から摂取し、腸内の悪玉菌の繁殖を抑えることで腸内環境の維持に役立ち、精神的な安定へとつながります。ヨーグルトやキムチ、納豆などの発酵食品を摂取することで、腸内環境を健全に保つことができすので、これらの食材を毎日食べるように意識しましょう。

メンタルヘルスケアに悪影響を及ぼす食事

メンタルヘルスケアに悪影響を与えやすい食事は、バランスや量が偏った食事です。また過剰な摂取が問題視されがちな糖分やカフェインは、メンタルヘルスに悪影響を与えることがあります。特に、カフェインの摂取過多は不安感やイライラを引き起こすことがあるため、カフェインを多く含む飲料(コーヒーやエナジードリンク)を飲みすぎないよう注意が必要です。

また、過度なダイエットや極端な食事制限も、精神的健康に悪影響を与えることがあります。栄養が偏ると、神経伝達物質の合成が妨げられ、精神的な不調を引き起こすことがあるため、必要な栄養素をしっかり摂取することが大切です。

企業で行うメンタルヘルスケア

メンタルヘルス対策として、研修や相談窓口の設置に取り組むことが一般的となってきました。全従業員向けにはストレスの原因や影響、セルフケアの方法、相談窓口の案内などを実施し、管理職向けには部下のメンタルヘルスの変化に気づくポイントや声かけ、相談窓口への繋ぎ方などを学びます。従業員が安心して相談できる環境を提供することも重要であるため、産業医や保健師、カウンセラーなどが対応して専門的なアドバイスやサポートを行います。社内で設置することが難しい場合などは、外部の専門機関と連携し従業員が相談しやすい環境を整えます。

その他に、食堂でのヘルシーランチの提供や、宅配弁当のメニュー変更、社内に設置する自動販売機の商品を糖質が少ないものにするなどの食生活改善に向けた取り組みは、生活習慣病予防だけでなく、メンタルヘルスケアにもつながります。ヘルシーランチを食べることで、野菜の量や魚料理や豆料理を食べる頻度が増えることで、先に紹介したトリプトファンやオメガ-3脂肪酸やビタミンB群の摂取につながります。このような食事の改善により、従業員の仕事の効率が向上し、全体の職場環境が改善されることが期待できます。

まとめ

食事はメンタルヘルスに大きな影響を与える要因の一つです。トリプトファンやオメガ-3脂肪酸やビタミンB群などを豊富に含む食材を積極的に取り入れることで、精神的健康を支えることができます。しかし、過度な食事制限や偏った食事は逆効果となる可能性があるため、バランスの取れた食事と生活全般の改善が求められます。食生活の改善が、メンタルヘルスの向上に繋がることを意識して、従業員が日々の食事を見直すことができる機会を会社が整えることが重要です。
今後、企業にとって健康経営による食生活改善は単なる生活習慣病予防だけではなく、メンタルヘルスへの取り組みに必要不可欠な要素となるでしょう。食事改善を通じて従業員の心の健康を支え、持続可能な成長を目指しましょう!


健康支援BonAppetitでは、メンタルヘルス研修、ストレスマネジメント研修の他、管理栄養士による食生活セミナーや個別健康相談に応じています。貴社従業員の健康課題の把握した上で、効果的な健康経営を推進するサポートも可能です。従業員の健康増進と生産性向上を実現したいとお考えでしたら、ぜひご相談ください。より効果的な食生活改善施策でで、従業員の健康と企業の成長を促進しましょう!

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この記事を書いた人

植村瑠美

管理栄養士 健康科学修士
健康経営エキスパートアドバイザー

◆Profile◆
(株)健康支援BonAppetit 代表取締役
急性期総合病院で管理栄養士として10年間勤務し、生活習慣病患者を中心に5,000人の栄養指導を担当。現在は、多くの人が利用するコンビニ食や外食から始められる「食事の選び方」に着目した食事改善法をセミナー等で伝える。栄養素から伝える“理想的な食生活” ではなく、身近な食品から伝える  “超実践的な食生活”を伝えるセミナーが行動変容が起きやすいと好評。