朝食欠食の影響とは?肥満・メンタル不調などの健康リスクと企業損失


朝食を抜くことは、肥満や糖尿病といった生活習慣病だけでなく、メンタルヘルスの不調や女性特有の健康課題にも深く関係しています。さらに、従業員の体調不良による生産性の低下は、企業にとって大きな損失につながる可能性もあります。この記事では、朝食を抜くことの影響をわかりやすく解説します。

健康経営を推進する中で、朝食欠食の対策は多くの企業が苦戦する課題ですが、朝食欠食の影響を考えると、見過ごせない健康課題でもあります。最後までご覧いただくと、朝食欠食の対策を行う意味と目的が見え、具体的な施策を計画しやすくなりますよ。

朝食欠食が体の健康へ与える影響

朝食を抜くことでどのような影響があるのかを、まずは理解しましょう。「朝食を食べる意味が分からない」という理由で朝食を抜く従業員がいます。「なぜ朝食を食べる必要があるのか?」と尋ねられた際に、朝食欠食の影響が説明できるためにも確認しておきましょう。

朝食欠食の影響①:肥満や生活習慣病との関係

朝食の欠食は、脂質異常症(コレステロール血症)、高血圧、糖尿病などの生活習慣病や肥満の発症に関連することが、さまざまな研究で示されています。
名古屋大学の研究では、朝食を抜くことにより筋肉は減り、肥満のリスクが上昇することが示されています。筋トレを行う人には興味深い情報でしょう。「朝食を食べた方が太る」という感覚を持つ従業員がいるかもしれませんが、信頼できる情報源から正しい知識を提供することが重要です。

朝食を抜くことが肥満のリスクが高めるメカニズムは以下の通りです。

  • 朝食を抜くと前日の夕食から次の昼食まで、栄養をとらない状態が長くなり、午前中はエネルギー不足が不足し、血糖値は低い状態が続く
  • 体は下がった血糖値を補おうとして昼食や夕食で必要以上の食事をとるように働く
  • 必要以上の食事により血糖値は急激に高くなり、血糖値を下げるためにインスリンが過剰に分泌される
  • 血糖値を下げるために、糖を脂肪として体内へ取り込むことになり体脂肪が増加し、肥満のリスクが高まります

その他に、朝食を抜く習慣が肥満や生活習慣のリスクを高める理由として、1日のリズムを司る「体内時計」の乱れが指摘されています。体内時計は、24時間よりも少し長い周期でリズムを刻み、睡眠リズムやホルモン調節、体温、血圧などのコントロールをしています。起床後、朝の光を浴びて脳が目覚めたり、朝食を食べて体温が上がったりすることにより、内臓など体のさまざまな機能がリセットされ、1日24時間のリズムで動き出します。体内時計が乱れると、健康や日常生活の活動に悪い影響を及ぼすといわれています

朝食欠食の影響②:脳血管疾患や心血管疾患との関係

朝食欠食の習慣は、脂質異常症(コレステロール血症)、高血圧、糖尿病の発症を招き、結果的に脳血管疾患(脳卒中や脳梗塞など)や心血管疾患(心筋梗塞や狭心症など)のリスクも高まります。

国立がん研究センターの研究によると、朝食を週に0〜2回食べる人の方は、毎日朝食を食べる人よりも、脳卒中と虚血性心疾患を合わせた循環器疾患で14%、脳卒中全体で18%、脳出血で36%高くなっていました。これらの重大な疾患は休職や離職にもつながるため、早めに対策をとることが重要です。(参考:Stroke(2016)47.477-481

朝食欠食の影響③:低体温や免疫力との関係

体温は食事を食べることで上昇するため、食事を抜くと体温は低めになります。体温が1℃上がると、体が本来もっている免疫機能の働きや血液の流れがスムーズになり、体調不良を回避できると言われます。平熱が35.5~36.0℃以下は低体温といわれ、免疫力が低くなり風邪やインフルエンザへの感染リスクが高まるだけでなく、がんの発症リスクも高まると考えられています。

起床〜午前中は1日の中でも体温が低い時間帯です。朝食を食べることで体温は上昇しますが、欠食してしまうと、体温を十分に上げることができません。さらに体温を維持するエネルギーや栄養素も不足してしまうので、物事に集中できない、イライラする、ダルいなど午前中の活動が思うようにできなくなります。

体温が低い状態では、免疫力低下によるアブセンティーズム(仕事を休む)だけでなく、プレゼンティーズム(出勤しているけれど生産性が落ちている状態)にも影響を与えるということです。

朝食欠食の影響④:生理痛や月経前症候群(PMS)との関係

朝食を抜くことは、女性従業員特有の健康課題にも影響を及ぼします一般社団法人ラブテリが行った調査によると、仕事のパフォーマンスに自信のない、プレゼンティーズムの状態にある女性に共通する健康面の課題は、精神的アップダウンや、肌荒れ、生理痛、背中・腰の関節の不調など、原因が明確でない体調不良(不定愁訴)を抱えていることでした。さらに、朝食の欠食、やせ型、睡眠不足という生活習慣上の共通点がありました。他の研究でも、PMSや生理痛に悩む女性は朝食の欠食率が高いと報告されています。

厚生労働省による「国民健康・栄養調査」の結果から、日本人の20〜30代女性は必要なエネルギーや栄養素を摂取できていないことが分かっています。特に20代女性は、5人に1人がBMI(体格指数)18.5未満の「やせ」に該当します。やせているということは、食事摂取量が少なく、必要エネルギーが摂取できていない可能性があるということです。朝食を抜くことも食事摂取量が少なくなる要因です。参考令和元年厚生労働省「国民健康・栄養調査結果の概要」

必要なエネルギーが不足した状態では、体の機能は正常に働かず、体温の低下や血流の悪化、冷えにつながります。エネルギー以外の栄養素も不足するため、貧血などのさまざまな不調の原因にもなります。

また、日本のやせ型の女性は米国の肥満女性より糖尿病になりやすいということが順天堂大学の研究結果で報告されています。朝食を抜くことは、昼食時に血糖値が上がりやすく、やせているにも関わらず糖尿病予備軍になることを助長させる可能性があります。[参考:J Clin Endocrinol Metab. (2021)106(5):e2053-e2062.
厚生労働省の調査によると、20代女性の約2割は朝食を抜いています。女性従業員の健康を守るためにも、朝食欠食対策を進めることは重要です。

朝食欠食がメンタルヘルスへ与える影響

朝食を抜くことは、身体的な悪影響だけでなく、精神的(メンタル)へも悪影響を及ぼします。その理由は主に2つあり、エネルギーや栄養素の不足と生活リズムの乱れです。

朝食欠食がメンタルヘルスへ影響する理由①エネルギーや栄養素の不足

朝食を抜くことで脳のエネルギー源であるブドウ糖が不足します。ブドウ糖は、体内に大量に蓄えておくことができず、眠っている間にも利用されるので、朝食を抜くことで体のブドウ糖は枯渇状態となります。ブドウ糖が不足することで、集中力が持続しない、イライラするなど、メンタルの不調につながります

その他にも、たんぱく質が不足することもメンタル不調へ影響があります。たんぱく質は、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンなどのメンタルヘルスに関連の深い神経伝達物質の材料になります。朝食を抜くことでたんぱく質が不足すると、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンといった神経伝達物質が不足し、感情や気分を調節する機能が落ちるため、前向きな気分を維持しにくくなる可能性があると考えられています。

朝食欠食がメンタルヘルスへ影響する理由②生活リズムの乱れ

朝食を抜くと一日の生活リズムを担う「体内時計」が狂います。体内時計は、睡眠リズムやホルモン調節、体温、血圧などを調節しているため、このリズムが乱れると精神状態に悪影響をおよぼします。リズムが乱れると、昼間に頭がボーッとしたり、寝たい時間に寝られなかったり、さまざまな問題を引き起こします。感情が不安定になったり、憂うつになったりもします。生活リズムが整うことで、日中の活動や睡眠のサイクルも自然に整い、ストレス管理にもつながります。

朝食欠食の影響〜企業の損失〜

ここまで解説したとおり、朝食を抜くことは心身の健康へさまざまな悪影響を及ぼします。これらは、健康関連コスト増加生産性への影響という2つの理由から、企業への損失へとつながります。

朝食欠食による損失①健康関連コストの増加

従業員の健康に取り組むことは、企業の利益に直接繋がらないと考える人も多いようです。
しかし、生活習慣病などの疾病の予防施策の経済的効果について、労働経済学的観点から分析した研究によると、生活習慣病医療費とメンタルヘルス関連医療費は、企業業績には直接的な関係性があることが示されています。具体的には、生活習慣病医療費(1人当たり)が1万円減少すると、翌年の労働生産性が 1.9%上昇する可能性や、メンタルヘルス関連医療費が 0.1 万円減少すると、当年の利益率が 0.008%ポイント、翌年の利益率が 0.013%ポイント上昇する傾向があると報告されています。1人当たりではわずかな変化かもしれませんが、従業員の健康維持は企業の利益に直接的なメリットがあるということが分かります。[参考:健康と労働生産性の関係に関する労働経済学的研究

さらに、従業員の健康関連コストのうち、医療費が15.7%であるのに対し、労働生産性の損失が約80%を占めることが日本における調査で報告されています。その主な要因は「プレゼンティーイズム(病気や不調を抱えながら働くこと)」が77.9%「アブセンティーイズム(病気や不調により欠勤すること)」が4.4%であり、出勤はしているけれど体調不良のまま働くことで、生産性が著しく低下していることが分かります。体調不良による欠勤だけでなく、プレゼンティーイズムへの対策を見落としてはいけません。[参考:東京大学政策ビジョン研究センターWG「アウトカム指標による健康経営の可視化」]

朝食欠食による損失②生産性への影響

先に紹介した通り、プレゼンティーイズムは生産性を低下させ、朝食を抜くことはプレゼンティーイズムの原因となることがわかっています。労働者20,000人に対して行われた調査(3)によると、不眠と朝食欠食の両方に該当する労働者は、労働生産性が最も低いと報告されています。不眠や朝食欠食の課題を抱える人に共通する特徴として、若年者、一人暮らし、労働時間が週50時間以上が挙げられ、朝食欠食と不眠には関連があることも分かっています。[参考:Masuoka R,Sato S,et al. Japanese Society of Health Education and Health Promotion. 2024;32(3):148-155 

先にも解説した通り、朝食を食べないと、脳に必要なエネルギーが不足し、集中力の低下を招き、これにより業務効率の低下、判断ミスの増加、疲労感の蓄積などの問題が発生しやすくなります。また、食事の不規則さが疲労感や抑うつ症状を増加させ、睡眠の質を低下させることも明らかになっています。これらの要因が重なり、プレゼンティーイズムを加速させることになります。[参考:Hayashida T, Shimura A ,et al. Neuropsychiatric Disease and Treatment.2021:17 315—321

その他にも、朝食欠食が招く生産性への影響は多くあります。

朝食欠食が招く生産性への影響

  • 業務効率の低下:集中力や思考力が低下することで、業務の効率が悪くなり、作業時間が長くなってしまう可能性があります。作業時間の延長は残業時間にも影響を与えます。
  • ミスや事故の増加:集中力の低下やメンタル不調は、ミスや重大な事故につながるリスクを高めます。
  • モチベーション低下:健康状態が悪化すると、気持ちも沈みがちになり、仕事へのモチベーションが低下する可能性考えられます。
  • 離職率増加:メンタル不調等によるパフォーマンスの悪化は、従業員の仕事満足度を低下させ、離職率の上昇につながる可能性があります。さらに生活習慣病などの健康状態の悪化による離職の可能性も考えられます。

企業の持続的成長には、従業員の健康と生産性が重要です。朝食欠食の問題は、軽視すべきではない重要な経営課題とも考えられるでしょう。これらの損失を回避するためにも、従業員の朝食欠食への対策は不可欠です。

まとめ

この記事では、朝食欠食の影響について詳しく解説しました。具体的な対策についてはこちらの記事で詳しく解説しますので、併せてご覧ください。

朝食を抜くことは、従業員の健康や生産性に悪影響を与えるだけでなく、企業にとっても大きな損失となります。自社の朝食欠食率と欠食に至る理由を把握した上で対策を行い、朝食を食べる習慣をつくることから従業員の健康と生産性を高め、働きがいのある職場環境を実現することで、企業の成長を促進しましょう。


健康支援BonAppetitでは、健康経営優良法人認定取得の支援や、朝食欠食対策などの食生活改善をテーマとしたセミナーを開催し、中小企業の健康経営をサポートしています。従業員の健康増進と生産性向上を実現したいとお考えでしたら、ぜひご相談ください。より効果的な朝食欠食対策で、従業員の健康と企業の成長を促進しましょう!

この記事を書いた人

植村瑠美

管理栄養士 健康科学修士
健康経営エキスパートアドバイザー
メンタルヘルスマネジメント検定Ⅱ種

◆Profile◆
(株)健康支援BonAppetit 代表取締役
急性期総合病院で管理栄養士として10年間勤務し、生活習慣病患者を中心に5,000人の栄養指導を担当。現在は、多くの人が利用するコンビニ食や外食から始められる「食事の選び方」に着目した食事改善法をセミナー等で伝える。栄養素から伝える“理想的な食生活” ではなく、身近な食品から伝える  “超実践的な食生活”を伝えるセミナーが行動変容が起きやすいと好評。


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