健康経営を推進する中小企業が、対策に苦戦する食生活改善の課題に「朝食の欠食率」があげられます。
しかし、「朝食を抜く」ことは、もはや個人の問題ではありません。企業の生産性や従業員の健康に深く関わる、社会全体の課題となっています。特に20代~40代の若年層を中心に、朝食欠食率は上昇傾向にあります。企業が健康経営と通してこの社会課題に取り組む上で、健康経営担当者が知っておきたいポイントを5つまとめました。
朝食欠食の対策が重要なことは分かるけど、従業員の体の不調やメンタル不調、生産性にどのような影響が出るのかいまいち説明ができない…という方はぜひ最後までご覧ください!
健康経営で朝食欠食率改善を行う意味と目的が見え、具体的な施策を計画しやすくなりますよ!

①世代別の朝食欠食率と朝食を食べない理由
20〜40代で多い朝食の欠食習慣
「朝食の欠食」は企業だけでなく、日本全体でも課題となっており、厚生労働省による平成29年の調査(国民健康・栄養調査)では、20歳以上の男性の15.0%、女性の10.2%が朝食を食べていないと報告されています。20代で朝食の欠食率が最も高く、20〜40代で朝食を食べていない人の割合が高い傾向にあります。また、男性の方が欠食率が高い点も特徴的です。
朝食欠食率は健康診断の問診票から把握することができます。自社の傾向をしっかりと把握してみましょう。
朝食欠食の習慣はどのタイミングで始まるのかを考察します。少し古いデータですが、平成21年に厚生労働省が行なった調査(国民健康・栄養調査)の結果によると、20歳以降に朝食欠食の習慣が始まった人の割合が男性でおよそ5割、女性で6割でした。
子どもの頃から朝食を食べる習慣がない場合、習慣を変えることはなかなか難しいかもしれません。しかし、半数以上の人は大人になってから始まった習慣であるため、朝食のメリットや効果を実感できれば朝食を食べる習慣が身につく可能性は十分にあるでしょう。そのためには、企業側の支援が重要となります。
朝食を食べない理由は?
朝食を食べない理由に多いのは、「時間にゆとりがない」「ぎりぎりまで寝ていたい」「食欲がない」「食べる習慣がない」などです。その他、「朝食の準備が面倒」「朝食を食べる意味が分かららない」「朝食を食べると太る」といった回答があがることもあります。
朝食を食べない理由は年代やライフスタイル、業種によって異なる場合があります。従業員の朝食欠食率を下げるためには、自社の朝食欠食率を把握するとともに、欠食してしまう理由を把握することで、より効果的な対策の企画につながります。
従業員がどのような理由で朝食を食べないかは、健康意識アンケートなどを行なって把握することが望ましいです。

また、神戸大学の研究から興味深い報告があります。
夕食時間が遅い人ほど、朝食を食べる時間的余裕がなくなる傾向にあることや、健康的な食生活への意識が低くなるほど朝食欠食の確率が高いこと、単身世帯の方が2人以上の世帯よりも朝食欠食の確率が高いといったものです。(引用:成人の朝食欠食の規定要因に関する分析)
このことから、朝食欠食の対策を考える時には、「朝食を食べてもらおう」という対策を考えるだけでなく、「夕食時間を早める」、「健康的な食生活意識を身につける」などの対策からアプローチすることも良いのかもしれません。
②朝食欠食による健康への影響
従業員の朝食欠食率を下げるためには、朝食欠食がもたらす問題点を理解することが、対策を立てる上で非常に重要です。「朝食を食べる意味が分かららない」という理由で朝食を食べない従業員がいます。「なぜ朝食を食べる必要があるのか?」と尋ねられた際に、健康経営担当者が理解しておきたいポイントを解説します。

肥満や生活習慣病への影響
朝食の欠食は、脂質異常症(コレステロール血症)、高血圧、糖尿病などの生活習慣病や肥満の発症に関連することが、さまざまな研究で示されています。
名古屋大学の研究では、朝食欠食により筋肉は減り、肥満のリスクが上昇することが示されています。筋トレを行う人には興味深い情報でしょう。「朝食を食べた方が太る」という感覚を持つ従業員がいるかもしれませんが、信頼できる情報源から正しい知識を提供することが重要です。
朝食欠食が肥満や生活習慣のリスクを高める理由として、1日のリズムを司る「体内時計」の乱れが指摘されています。体内時計は、24時間よりも少し長い周期でリズムを刻み、睡眠リズムやホルモン調節、体温、血圧などのコントロールをしています。起床後、朝の光を浴びて脳が目覚めたり、朝食を食べて体温が上がったりすることにより、内臓など体のさまざまな機能がリセットされ、1日24時間のリズムで動き出します。体内時計が乱れると、健康や日常生活の活動に悪い影響を及ぼすといわれています
例えば、朝食を抜くと前日の夕食から次の昼食まで、栄養をとらない状態が長時間続くため、午前中はエネルギー不足の状態になり血糖値は低い状態が続きます。体は下がった血糖値を補おうとして昼食や夕食で必要以上の食事をとるように働きます。すると、血糖値は一気に高くなり、血糖値を下げるためにインスリンが過剰に分泌され、糖を脂肪として取り込むことになり体脂肪が増加し、肥満のリスクを高めます。

脳血管疾患や心血管疾患への影響
朝食の欠食は、脂質異常症(コレステロール血症)、高血圧、糖尿病の発症を招くため、脳血管疾患(脳卒中や脳梗塞など)や心血管疾患(心筋梗塞や狭心症など)のリスクも高まります。
国立がん研究センターの研究によると、朝食を週に0〜2回食べる人の方は、毎日朝食を食べる人よりも、脳卒中と虚血性心疾患を合わせた循環器疾患で14%、脳卒中全体で18%、脳出血で36%高くなっていました。これらの重大な疾患は休職や離職にもつながるため、早めに対策をとることが重要です。(参考:Stroke(2016)47.477-481)

低体温や免疫力への影響
体温は食事を食べることで上昇するため、食事を抜くと体温は低めになります。体温が1℃上がると、体が本来もっている免疫機能の働きや血液の流れがスムーズになり、体調不良を回避できると言われます。平熱が35.5~36.0℃以下は低体温といわれ、免疫力が低くなり風邪やインフルエンザへの感染リスクが高まるだけでなく、がんの発症リスクも高まると考えられています。
起床〜午前中は1日の中でも体温が低い時間帯です。朝食を食べることで体温は上昇しますが、欠食してしまうと、体温を十分に上げることができません。さらに体温を維持するエネルギーや栄養素も不足してしまうので、物事に集中できない、イライラする、ダルいなど午前中の活動が思うようにできなくなります。
体温が低い状態では、免疫力低下によるアブセンティーズム(仕事を休む)だけでなく、プレゼンティーズム(出勤しているけれど生産性が落ちている状態)にも影響を与えるということです。

③朝食欠食によるメンタルへの影響
朝食の欠食は、身体的な悪影響だけでなく、精神的(メンタル)へも悪影響を及ぼします。朝食欠食がメンタルへ影響する理由は主に2つあり、エネルギーや栄養素の不足と生活リズムの乱れです。
エネルギーや栄養素の不足
朝食を抜くことで脳のエネルギー源であるブドウ糖が不足します。ブドウ糖は、体内に大量に蓄えておくことができず、眠っている間にも利用されるので、朝食を抜くことで体のブドウ糖は枯渇状態となります。ブドウ糖が不足することで、集中力が持続しない、イライラするなど、メンタルの不調につながります。
その他にも、たんぱく質が不足することもメンタル不調へ影響があります。たんぱく質は、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンなどのメンタルヘルスに関連の深い神経伝達物質の材料になります。朝食欠食でたんぱく質が不足すると、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンといった神経伝達物質が不足し、感情や気分を調節する機能が落ちるため、前向きな気分を維持しにくくなる可能性があると考えられています。

生活リズムの乱れ
朝食を抜くと一日の生活リズムを担う「体内時計」が狂います。体内時計は、睡眠リズムやホルモン調節、体温、血圧などを調節しているため、このリズムが乱れると精神状態に悪影響をおよぼします。リズムが乱れると、昼間に頭がボーッとしたり、寝たい時間に寝られなかったり、さまざまな問題を引き起こします。感情が不安定になったり、憂うつになったりもします。生活リズムが整うことで、日中の活動や睡眠のサイクルも自然に整い、ストレス管理にもつながります。

④朝食欠食による女性特有の健康課題への影響
一見無関係に思える朝食欠食ですが、女性従業員特有の健康課題にも影響を及ぼします。一般社団法人ラブテリが行った調査によると、仕事のパフォーマンスに自信のない、プレゼンティーズムの状態にある女性に共通する健康面の課題は、精神的アップダウンや、肌荒れ、生理痛、背中・腰の関節の不調など、原因が明確でない体調不良(不定愁訴)を抱えていることでした。さらに、朝食の欠食、やせ型、睡眠不足という生活習慣上の共通点がありました。他の研究でも、PMSや生理痛に悩む女性は朝食の欠食率が高いと報告されています。

厚生労働省による「国民健康・栄養調査」の結果から、日本人の20〜30代女性は必要なエネルギーや栄養素を摂取できていないことが分かっています。特に20代女性は、5人に1人がBMI(体格指数)18.5未満の「やせ」に該当します。やせているということは、食事摂取量が少なく、必要エネルギーが摂取できていない可能性があるということです。朝食を抜くことも食事摂取量が少なくなる要因です。【参考:令和元年厚生労働省「国民健康・栄養調査結果の概要」】
必要なエネルギーが不足した状態では、体の機能は正常に働かず、体温の低下や血流の悪化、冷えにつながります。エネルギー以外の栄養素も不足するため、貧血などのさまざまな不調の原因にもなります。

また、日本のやせ型の女性は米国の肥満女性より糖尿病になりやすいということが順天堂大学の研究結果で報告されています。朝食を抜くことは、昼食時に血糖値が上がりやすく、やせているにも関わらず糖尿病予備軍になることを助長させる可能性があります。[参考:J Clin Endocrinol Metab. (2021)106(5):e2053-e2062.]
⑤朝食欠食がもたらす企業への損失
①〜④で解説したとおり、朝食欠食が心身へ悪影響を及ぼし、従業員の仕事のパフォーマンス低下や生産性にも悪影響を及ぼす可能性があります。
朝食欠食が招く生産性への影響
- 業務効率の低下:集中力や思考力が低下することで、業務の効率が悪くなり、作業時間が長くなってしまう可能性があります。作業時間の延長は残業時間にも影響を与えます。
- ミスや事故の増加:集中力の低下やメンタル不調は、ミスや重大な事故につながるリスクを高めます。
- モチベーション低下:健康状態が悪化すると、気持ちも沈みがちになり、仕事へのモチベーションが低下する可能性考えられます。
- 離職率増加:メンタル不調等によるパフォーマンスの悪化は、従業員の仕事満足度を低下させ、離職率の上昇につながる可能性があります。さらに生活習慣病などの健康状態の悪化による離職の可能性も考えられます。
さらに企業は、以下のような損失を被る可能性があります。
- 医療費負担の増加:従業員の健康状態が悪化すると、医療費負担が増加します。
- 人材育成コストの増加:従業員の離職率が増加すると、人材育成コストが増加します。
- 業績悪化:生産性が低下すると、企業の業績が悪化する可能性があります。
企業の持続的成長には、従業員の健康と生産性が重要です。朝食欠食の問題は、軽視すべきではない重要な経営課題とも考えられるでしょう。これらの損失を回避するためにも、従業員の朝食欠食への対策は不可欠です。

まとめ
この記事では、従業員の朝食欠食問題に取り組む際に知っておきたい5つのポイントをお伝えしました。具体的な朝食欠食対策については他の記事で詳しく解説しますので、併せてご覧ください。
朝食欠食は、従業員の健康や生産性に悪影響を与えるだけでなく、企業にとっても大きな損失となります。自社の朝食欠食率と欠食に至る理由を把握した上で対策を行い、朝食欠食率の改善から従業員の健康と生産性を高め、働きがいのある職場環境を実現することで、企業の成長を促進しましょう。
健康支援BonAppetitでは、健康経営優良法人認定取得の支援や、朝食欠食対策などの食生活改善をテーマとしたセミナーを開催し、中小企業の健康経営をサポートしています。従業員の健康増進と生産性向上を実現したいとお考えでしたら、ぜひご相談ください。より効果的な朝食欠食対策で、従業員の健康と企業の成長を促進しましょう!
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この記事を書いた人

植村瑠美
管理栄養士 健康科学修士
健康経営エキスパートアドバイザー
◆Profile◆
(株)健康支援BonAppetit 代表取締役
急性期総合病院で管理栄養士として10年間勤務し、生活習慣病患者を中心に5,000人の栄養指導を担当。現在は、多くの人が利用するコンビニ食や外食から始められる「食事の選び方」に着目した食事改善法をセミナー等で伝える。栄養素から伝える“理想的な食生活” ではなく、身近な食品から伝える “超実践的な食生活”を伝えるセミナーが行動変容が起きやすいと好評。