ストレスを軽減する食生活と食べ方|働く人のイライラ防止・集中力向上に効く栄養と実践ステップ

働く人のストレス症状には、食生活の乱れやストレスを悪化させる食事パターンが密接に関係していることが研究で示されています。「イライラする」「集中できない」「眠れない」といったストレス症状は、睡眠不足や長時間労働だけでなく、食生活の乱れやエネルギー・栄養摂取量の不足が影響するということです。
厚生労働省「国民健康・栄養調査」では、食事の欠食や栄養バランスの偏りが課題であることが報告されており、働く世代ほどその傾向が強いことがわかっています。

さらに、ストレスは脳内の神経伝達物質や食欲のコントロールに影響し、食事の選択が乱れやすくなることが指摘されています。
つまり、ストレスと食生活は互いに影響し合う関係にあり、悪循環を断つためには「食事」からアプローチすることがとても有効です。

本記事では、管理栄養士の視点から、今日から実践できるストレス軽減のための食生活改善ステップを具体的に解説します。

特に企業では、ストレスによる生産性低下やメンタル不調が課題になりやすいため、「食事」からストレスを軽減するアプローチは非常に有効です。健康経営に取り組む企業での健康施策にも活用できる内容です。ぜひ最後までご覧ください。

メンタルヘルスと食生活の関係について知りたい方はこちらの記事もおすすめです。

ストレス×食生活 チェックリスト

まずは簡単に、現在の状態をチェックしてみましょう。

  • 朝食を食べない日が週3日以上ある
  • 昼食は炭水化物だけで済ませることが多い
  • 夕方になると甘いものが欲しくなる
  • 仕事中にイライラしやすい
  • 夜になると食欲が増す
  • 寝ても疲れがとれない
  • 最近、便秘・下痢が増えた

3つ以上当てはまる場合、ストレスと食事の乱れが互いに悪循環している可能性があります。
どのように対策をすれば良いか、具体的に解説していきます。

ストレスが強いとき、体の中では何が起きているのか

ストレスで食欲が乱れたり、甘いものを強く求めたりするのは、ストレス時の食事反応として一般的に起こることが知られています。なぜこのようなことが起こるのか、ストレスが体に与える影響を確認しましょう。

ストレスを感じたとき、私たちの体は自動的に「戦う・逃げるモード」に入り、脳やホルモン、血糖値などに変化が起こります。この影響によりストレスがたまると「甘いものが食べたい!」「やけ食いしたい」という状態が生じます。

ストレスで食欲が乱れる理由

強いストレスを感じると、脳内の神経伝達物質(セロトニン・ドーパミン)が乱れ、食欲中枢の働きが一時的に不安定になります。国立精神・神経医療研究センターによる解説では、ストレスは「食べすぎ」「食欲低下」どちらにも作用し得るとされています。

具体的には、

  • イライラ → 甘いもの・脂っこいものが欲しくなる
  • 緊張が続く → 胃腸の動きが低下し食欲が落ちる

といった反応が起こります。

ストレスホルモン「コルチゾール」と血糖値の関係

コルチゾールはストレスを感じたときに分泌されるホルモンで、血糖値を上昇させる働きがあります。コルチゾールと血糖値は密接に関係しているため、ストレス時の食べ方や間食の選び方が大きく影響します。

ストレスの影響で分泌されたコルチゾールの影響で血糖値が急上昇すると、体は血糖値を下げようと働きます。すると、血糖値の乱高下が起こり、情緒不安定や集中力低下を招くことが指摘されています。血糖値の乱高下は、強い眠気、集中力低下、甘いものの強い欲求が起こり、ストレスがさらに増加します。

脳が必要な栄養を得られないとどうなる?

ストレスによる食欲や食事選択の乱れにより、食事のバランスが崩れると体は必要な栄養を得られなくなります。これは脳も同じです。脳はブドウ糖だけでなく、ビタミンB群・ミネラル・必須脂肪酸なども必要です。
必要な栄養素が不足すると、

  • 判断ミスが増える
  • 感情のコントロールが難しくなる
  • 疲れやすい・集中が続かない

といった状態に陥りやすいことがさまざな研究で示されています。

ストレス軽減に役立つ栄養素と食材

ストレス対策の第一歩は「不足しやすい栄養素を補う」ことです。ストレス軽減との関係が示されている栄養素を紹介します。

心の安定に関わる「トリプトファン」+「ビタミンB6」

トリプトファンは、幸せホルモン・セロトニンの材料です。トリプトファンは、アミノ酸の一種なので、たんぱく質が豊富な食材に多く含まれます。中でも以下の食品に多く含まれます。

トリプトファンが多い食品

  • 大豆製品(豆乳、豆腐、納豆)
  • 乳製品(牛乳、ヨーグルトなど)
  • 魚類(かつお、まぐろ、鮭)
  • 肉類(赤身肉)
  • バナナ

また、ビタミンB6が不足するとセロトニン合成が低下するため、両方を一緒にとることが重要です。
ビタミンB6は、

ビタミンB6が多い食品

  • 肉類(赤身肉、レバー)
  • 魚類
  • ナッツ類
  • 全粒穀物

などに多く含まれます。魚類や肉類を食べることで、トリプトファンもビタミンB6も両方摂取することができます。しかし、動物性のたんぱく質よりも、植物性たんぱく質の方が、トリプトファンの吸収が良いと言われているため、大豆製品もうまく活用しましょう。

さらに、セロトニンは睡眠ホルモンのメラトニンにも変換されるため、睡眠質の向上にも寄与します。特に朝食でトリプトファンを積極的に食べることをおすすめします。

イライラ軽減に役立つ「マグネシウム」

マグネシウムは神経の興奮を抑える働きを持ち、不足するとイライラや不安感が増えることが知られています。マグネシウムは不足している人が多いので、積極的に以下の食材を食べるようにしましょう。

マグネシウムが多い食品

  • ナッツ類
  • 海藻類
  • 玄米
  • ほうれん草

間食にナッツをを取り入れたり、白米を玄米へ変更したりすると、毎日摂取しやすくなるでしょう。

脳の疲労回復に寄与する「オメガ3脂肪酸」

オメガ3脂肪酸(EPA・DHA)は、脳の神経細胞の働きを整え、メンタルヘルスの改善に寄与する可能性が多くの研究で示唆されています。

オメガ3脂肪酸(EPA・DHA)が多い食品

  • さば
  • いわし
  • えごま油

魚より肉を選ぶことが多い場合は、意識的に魚料理を選ぶようにしましょう。また、ツナ缶やサバ缶などの缶詰類をうまく活用することもおすすめです。

腸内環境とストレスの関係

腸は「第二の脳」と呼ばれ、腸内環境の乱れがストレス耐性低下と関連することが報告されています。腸内環境を整えるために食べるようにしたい食品として、発酵食品(ヨーグルト、納豆、キムチなど)や食物繊維が豊富な食材(野菜類、海藻、きのこなど)があげられます。どちらも不足しがちな食材ですので、意識的に選ぶようにしましょう。腸が整うと、気分の安定や睡眠改善にもつながります。

今日からできる「食生活×ストレス対策」具体的ステップ

ここからは、忙しい毎日の中でも始められるストレス軽減につながる食生活改善を具体的に紹介します。自宅や職場ですぐ実践できるため、ご自身のストレス対策だけでなく、従業員サポートにも活用できます。

Step① 食事時間のリズムを整える

食事のリズムが整うと、血糖値が安定し、脳と気分も安定します。「スケジュールの合間に適当に食べる」、「間食ですませる」ということはぜず、食事時間をできる限り決め、その時間に食べるようにしましょう。

食事の時間は1時間程度ならズレても問題ありません。例えば、昼食を12時と決めたら、前後1時間ずつ、つまり11時〜13時の間に昼食を食べることができればかまいません。

また、食事中はメールや資料の確認などは行わず、食事に集中することや、軽食や菓子類などで簡単にすませず、きちんと食べることも大切です。

Step② 間食で不足しがちな栄養を補う

間食はチョコレートやグミ、クッキーなどのお菓子類を選ぶことが多いでしょう。それも良いですが、間食で日頃不足しがちな栄養素を補うことも大切です。

おすすめの間食

  • ナッツ類(ビタミンB6、マグネシウム、食物繊維)
  • 全粒穀物:グラノーラなど(食物繊維、ビタミンB6)
  • 小魚(DHA、EPA)
  • 海藻類(マグネシウム、食物繊維)
  • ヨーグルトやチーズ(トリプトファン)
  • バナナ(トリプトファン)

菓子類を完全にやめる必要はありませんが、おすすめの間食を選ぶ頻度が増えていくと、栄養素の不足が改善されていくでしょう。

また、菓子類を食べすぎると、血糖値が急激に変動して眠気や集中力の低下につながることがあります。おすすめの間食は血糖値の変動が穏やかな食材のため、集中力低下を防ぐことにもなります。血糖値の変動が穏やかな間食は、イライラ予防や集中力UPにつながる食べ物として職場でも取り入れられています。

Step③ 飲み物を工夫する

眠気を感じたり、ストレスがたまったりした時に、コーヒーやエナジードリンクを飲んでいないでしょうか。カフェインのとりすぎは睡眠質低下につながり、ストレス耐性を下げます。コーヒーなどのカフェインを多く含む飲料1日に1〜2杯程度とし、カフェインの少ない飲料も取り入れていきましょう。特に夕方以降のカフェインは夜の睡眠に影響を与えます。睡眠の質が高まると、しっかり休息をとることができ、エナジードリンクがなくても元気に過ごせるようになるでしょう。

カフェインが少ないの飲料

  • デカフェコーヒー
  • カフェインレスコーヒー
  • ルイボスティー
  • 麦茶

Step④ レトルト品や冷凍食品の活用で栄養アップ

不足しがちな栄養素の補給は、レトルト品や冷凍食品の活用でも可能です。
自炊や自宅で食べる習慣がある方は以下の食材を活用してみましょう。

活用できる食材

  • 魚類の摂取(トリプトファン、ビタミンB6、DHA、EPA)
    ∟サバ缶・ツナ缶を常備する、コンビニの焼き魚利用、冷凍の魚切り身の利用
  • 大豆製品(トリプトファン)
    ∟納豆・豆腐を常備する、飲み物を豆乳へ変える(ソイラテなどにする)
  • 玄米(マグネシウム、食物繊維)
    ∟玄米おにぎりやレトルトの玄米ご飯を選ぶ
  • 全粒穀物(食物繊維、ビタミンB6)
    ∟全粒粉のパンやグラノーラを選ぶ
  • 海藻類(マグネシウム、食物繊維)
    ∟海藻サラダや味噌汁、スープなどを選ぶ
  • ほうれん草(マグネシウム、食物繊維)
    ∟冷凍野菜の利用

自炊をしない場合は、外食やコンビニでの選び方を変えるだけでも実践ができます。

ストレス軽減のための企業が取り組みたい食生活支援

個人の努力だけでは限界があります。企業が食生活支援に取り組むことで、ストレス軽減や生産性向上につながります。

健康経営としての食生活支援

健康経営に取り組む企業では、職場のストレス対策としての食生活改善を導入するケースが増えています。

  • 食生活改善セミナーの実施
  • 健康的な間食の販売
  • ミールサポート

などは、企業規模に関わらず取り入れられることが増えています。

健康的な間食の販売や、ミールサポート(OFFICE DE YASAIなど)を導入するタイミングや利用数が減っているタイミングで、食生活改善のセミナーを開催し、その活用法を講師から伝えてもらうことで、企業が導入したサービスを有効に活用してもらえるでしょう。

専門家(管理栄養士)の活用メリット

管理栄養士などの専門家が介入したプログラムは、栄養改善の実践率が高まることが報告されています。従業員の生活背景などを理解した上で行われる専門家のサポートは、従業員の「やってみよう」という心理的ハードルを下げます。

社内では対応しきれない施策やプログラムの企画や、導入しているサービスの活用方法の提案、セミナーや個別栄養相談の実施など、専門家に依頼することで解決できることが多くあります。
自社での対応に行き詰まった時は、一度相談してみると良いでしょう。

まずはできる範囲から、食生活の改善を始めてみてください。
一人ひとりの小さな改善が、職場全体の雰囲気やパフォーマンスを大きく変える力を持っています。

まとめ|食生活改善はストレス軽減の有効な第一歩

ストレス対策というと睡眠や運動が注目されますが、厚生労働省のデータや各研究レビューでも示されるように、食生活はストレス反応・気分・集中力に大きく影響します。

本記事で紹介した、トリプトファンやマグネシウムなどの栄養素の摂取や、間食や飲み物の選び方、職場でできる環境づくりは、「今日からできる」「続けやすい」というものを中心に紹介しました。個人が一人で行うと少しハードルが高いこともありますが、企業が取り組むことで職場風土が変わり、従業員同士が声をかけあって継続しやすい傾向にあります。食生活改善は、ストレス軽減だけでなく、集中力向上・睡眠の質改善にもつながるため、

  • メンタル不調の予防
  • 集中力・生産性の向上
  • 従業員満足度の向上

にも寄与し、健康経営を取り組む企業にとっては、嬉しい効果が生まれるでしょう。
食生活改善は、ストレスに負けない組織づくりの土台となります。ストレスマネジメントの一環として、食生活改善に取り組んでみてはいかがでしょうか。


健康支援BonAppetitでは、健康経営優良法人認定取得の支援や、ストレス対策につながる食生活改善をテーマとしたセミナーやメンタルヘルス・ストレスマネジメント研修を開催し、中小企業の健康経営をサポートしています。従業員の健康増進と生産性向上を実現したいとお考えでしたら、ぜひご相談ください。より効果的なストレスマネジメントで、従業員の健康と企業の成長を促進しましょう!

この記事を書いた人

植村瑠美

管理栄養士
ビーイングコミュニケーション・トレーナー
睡眠改善インストラクター
健康経営エキスパートアドバイザー
メンタルヘルス・マネジメント検定Ⅱ種
健康科学修士

◆Profile◆
(株)健康支援BonAppetit 代表取締役
急性期総合病院で管理栄養士として10年間勤務し、生活習慣病患者を中心に5,000人の栄養指導を担当。現在は、多くの人が利用するコンビニ食や外食から始められる「食事の選び方」に着目した食事改善法をセミナー等で伝える。栄養素から伝える“理想的な食生活” ではなく、身近な食品から伝える  “超実践的な食生活”を伝えるセミナーが行動変容が起きやすいと好評。


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