従業員の健康管理は、中小企業にとって大きな課題です。
特に食生活の改善は個人の問題に思われがちですが、従業員任せにしてしまうと将来的には生産性の低下や医療費の増加といったリスクを抱えかねません。特に中小企業では人間関係が濃厚なため、プライバシーへの配慮が必要となり、食生活への直接的な介入は難しい側面があります。
本記事では、食生活改善を従業員任せにするリスクや、中小企業が取るべきアプローチについて解説します。
会社と従業員、健康管理に関するそれぞれの責任とは?
まず、企業と従業員の健康管理に関する法律的な立場を確認しましょう。
会社が行う健康管理:安全配慮義務
企業が従業員の健康を守ることは、いくつかの法律によって義務付けられています。
例えば、労働契約法第5条では「安全配慮義務」が明文化されています。安全配慮義務とは、従業員が安全かつ健康的に働ける環境を提供する義務を指します。単に職場の安全を確保するだけでなく、精神的・身体的な健康を守るための取り組みも含まれます。その他、労働安全衛生法第7章では「健康の保持促進のための措置」について詳しく規定されています。
このように企業は、法律的に従業員の健康管理をしなければならないのです。従業員の健康管理に必要な基本的な項目には、長時間労働の是正、健康診断の実施、ストレスチェックの実施、職場環境の整備、福利厚生の拡充、研修の実施、相談窓口の設置などが挙げられます。
健康診断結果が改善しない、あるいは生活習慣病のリスクが高い従業員が増え続けると、企業の生産性やコストに直接的な影響が及ぶ可能性があります。特に従業員の高齢化や、人材確保の問題を抱える中小企業では、従業員の健康管理を支援することは、会社の経営に大きく関わります。
従業員が行う健康管理:自己保健義務
一方で、従業員には「自己保健義務」が労働安全衛生法で定められています。労働者が自分の健康管理に努め、安全に働けるように行動する義務を指します。
職場で労働者が安全に業務を遂行できるように取り計らうのは管理者の義務ですが、働くための健康維持は自己保健義務で労働者自身が管理します。
ただし、忙しい毎日の中で適切な食生活を維持することが難しい従業員も多いのが現実です。このような状況では、会社が適切に支援することで、従業員の健康意識を高める効果が期待できます。
自身の健康に配慮できる従業員の割合
では、自ら健康管理を行える人はどのくらいいるのでしょうか。厚生労働省が2024年11月に発表した「令和5年 国民健康・栄養調査」からその傾向を把握することができます。
①栄養バランスを考えた食事をしている人
健康に配慮した食生活には「栄養バランスのとれた食事」が基本です。
栄養バランスが考えられた主食・主菜・副菜を組み合わせた食事を、毎日1日2回以上摂っている人の割合は、男性45.7%、女性 47.1%であり、男女ともに 70 歳以上で最も高いという結果でした。
参考)主食:ごはん、パン、麺類などの料理、主菜:魚介類、肉類、卵類、大豆・大豆製品を主材料にした料理、副菜:野菜類、海藻類、きのこ類を主材料にした料理
特に20代〜30代では30%未満と特に低いことが分かっています。さらに、20代〜50代の10〜20%の人が主食・主菜・副菜を組み合わせた食事をとることがない、週に1日と回答しています。この背景には、忙しい生活や手軽な外食・加工食品への依存が挙げられるでしょう。こうした食生活は、栄養バランスの偏りにつながり、将来的な生活習慣病リスクを高める要因となります。
②野菜の摂取量が充足している人
日本人の食生活の課題である、野菜摂取量は平均値は 256.0g (男性 262.2g、女性 250.6g)で、推奨される350gを大きく下回っています。男性は 過去10年で、女性は平成27年から有意に減少しています。さらに年代別に見ると、男女ともに20代が最も少ないことが分かりました。
③食生活改善の意思がある人
栄養バランスのとれた食事をする頻度や野菜摂取量に関する調査結果から、健康に配慮した食生活ができている人の割合を推測することができるでしょう。現状のままでは、体重増加や生活習慣病を引き起こし、従業員の健康に悪影響を及ぼすと考えられます。
では、食生活を改善する意欲はあるのでしょうか。厚生労働省の調査では食生活改善の意思ついても調査が行われています。栄養バランスのとれた食事(主食・主菜・副菜を組み合わせた食事)を食べている頻度と、食習慣改善の意思を調査した結果が以下のグラフです。
栄養バランスのとれた食事をしていない、週に1回程度と回答した人の50〜70%が食生活を改善する意欲がないことがわかります(赤色枠)。さらに、栄養バランスのとれた食事をしていないにも関わらず、「食習慣に問題はないため改善する必要はない」と考えている人が約10%います(緑色枠)
この結果を見ると、食生活改善のなどの健康管理を従業員任せにすることはリスクが高いと感じるのではないでしょうか。改善することに関心がなかったり、食習慣に問題がないと従業員が理解してしまう背景には、健康管理に対する正しい知識がないことも理由の一つと考えられるでしょう。
会社が取り組む健康管理対策
従業員の健康が企業に及ぼす影響
従業員の健康悪化は、単に個人の問題にとどまりません。健康診断結果の悪化は、病気休職や離職を引き起こすリスクを高めるだけでなく、医療費の企業負担や労働生産性の低下につながります。企業が従業員の健康維持を支援することは、結果的に経営コストの削減や企業価値の向上につながるのです。特に中小企業にとっては重要なテーマです。
食生活改善で生じる中小企業特有の課題
中小企業では、従業員の人数が少なくアットホームな職場も多いでしょう。従業員同士の仲が良く、お互いの健康を配慮しあえる関係性ができると理想的です。しかし、従業員同士の距離が近いことから、食生活への介入がプライバシーの侵害と受け取られる可能性があります。特に、経営者や上司、健康経営担当者からアプローチをする時は、本当に従業員のことを大切に考えていることがしっかりと伝わる必要があります。会社のために取り組まされるという感情が芽生えると健康管理に後ろ向きになるだけでなく、プライバシーの課題が生じやすくなります。
中小企業特有の課題解決には専門家の力が重要!
このような課題を乗り越えるには、第三者である専門家を活用するのが有効です。特定保健指導や個別健康相談、さらには食生活セミナーを実施することで、従業員の信頼を得ながら効果的な改善が期待できます。外部専門家が介入することで、従業員は「会社が個人の生活に干渉している」とは感じにくく、「会社は従業員の健康に気遣ってくれている」と感じやすくなることもメリットです。
食生活改善に取り組む際は、管理栄養士や保健師に相談するのが効果的です。特に管理栄養士は食事や栄養のプロフェッショナルなので、社内では気づけない健康課題や改善方法を提示してくれるでしょう。また個別相談では、従業員の業務やライフスタイルに合わせて改善につながりやすい方法を指導してくれます。
なぜ健康管理が必要なのか、現在の健康状態はどうなのか、現在の食生活の良い点と改善すべき点は何かに、従業員自身が向き合う時間を設けることで、従業員の健康意識が高まるでしょう。意識変容は一度ではうまくいかないかもしれませんが、中長期的な視点で対策を検討すると良いでしょう。
まとめ:会社と従業員がともに歩む健康経営
データで示したとおり、不健康な食生活をする従業員の割合は特に若い世代に多く、この生活習慣が定着してしまうと、生活習慣病だけでなく、心筋梗塞や脳卒中などの大きな病気へとつながります。本人には食生活を改善する意思がない可能性もあります。健康経営を通して、会社と従業員が一緒に健康管理を行う風土を形成しましょう。従業員の食生活改善に会社が協力することは、健康経営を成功させるための重要な要素です。企業がその責任を果たし、管理栄養士などの専門家の力を借りながら適切なサポートを行うことで、従業員の健康を守るだけでなく、企業全体の成長にもつながります。
健康経営の成功は、従業員の健康を大切にする文化を築くことから始まります。まずは、専門家に相談してみましょう。従業員一人ひとりの健康が守られることで、会社全体がより強く、より成長する未来を手に入れられるのです。次のステージへ、今こそ一歩を踏み出しましょう!
健康支援BonAppetitでは、管理栄養士による食生活セミナーや個別健康相談に応じています。貴社従業員の健康課題の把握した上で、効果的な健康経営を推進するサポートも可能です。従業員の健康増進と生産性向上を実現したいとお考えでしたら、ぜひご相談ください。より効果的な食生活改善施策でで、従業員の健康と企業の成長を促進しましょう!
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この記事を書いた人
植村瑠美
管理栄養士 健康科学修士
健康経営エキスパートアドバイザー
◆Profile◆
(株)健康支援BonAppetit 代表取締役
急性期総合病院で管理栄養士として10年間勤務し、生活習慣病患者を中心に5,000人の栄養指導を担当。現在は、多くの人が利用するコンビニ食や外食から始められる「食事の選び方」に着目した食事改善法をセミナー等で伝える。栄養素から伝える“理想的な食生活” ではなく、身近な食品から伝える “超実践的な食生活”を伝えるセミナーが行動変容が起きやすいと好評。